2010年6月12日 麗江通信
(父のニュースレターの転載:個人名は伏せます。)
67号NEWS LTTR
ヒマラヤ山脈の東端、海抜2400mの麗江高地の気温は、朝7時18℃、午後2時23℃。麗江盆地では、今は菜種、麦、豆、カンランの収穫で農家は大変忙しい。
農家は一家総出で畑に出ていますが、この時期の収穫作業の光景で、昨年と変わった事といえば、麦の収穫に初めて小型のバインダー(麦類の自動刈り取り機械)が登場したことです。日本製のヤンマー、クボタに加え中国製の機械も登場しています。
観光開発で農地を売り、多額の現金収入を得た農民の中には、キツク、ツライ麦の収穫作業をしたがらない者が多い・・・。観光開発で、一時的に裕福になり、怠惰になった農民に目をつけたのは、商人でした。商人が高額のバインダーを所有して、農村青年を運転手に雇い、農民から麦刈り作業を請け負い、作業料金を受け取る新登場のビジネスなのですが、農民から見れば、キツク、ツライ作業はしたくないものの、バインダー作業の料金が高く、現在の麦の販売価格ではペイしない。
バインダーを所有する商人の誤算は、バインダーの購入価格が高く、現在の麦価格の範囲での料金ではペイしない。加えて農地と集落を二分して、ゴルフ場予定地には、4車線の観光道路が開通してはいるものの、バインダーが入る農道が無いため、バインダーの利用範囲は観光道路周辺に限られている・・・・。
このバインダー騒動を見物しながら、多くの農民は、昨年と同じ、鎌で麦を刈り、手で束に結わえて、背負って運び、麦架で乾燥し、庭先で脱穀して居ります。
(1)私の花卉実験伝習農場では、カラーの黄、紫、赤・・・など、採種用の花が咲いております。観光開発のゴルフ場に花卉実験伝習農場を盗られて3年が経過しました。この三年間・・・。麗江高地の小数民族が生産する中国産カラーの種球根の到来を待望し、援助ていただいた、日本の友人たちの期待を裏切る事になり、その事が一番心苦しかった・・・。しかし多くの友人たちに励まされ、研修生と共に再建に努めて来ました。 今年、美しく咲いてくれたカラーの仏炎苞を見るにつけ、感無量のものがあります。
カラーの他に、サンダーソニア、ブルーべリー、などの温帯花卉の開花に加えて、「くるくま」、パイナップルリリーなど、熱帯花卉も発芽をはじめております。 3年前の規模には未だ及びませんが、採種と育苗農場と球根生産農場を分離した結果、採種、育苗農場についてははどうやら基礎は回復できたと思います。加えて、日本に留学し、帰国して麗江の世界遺産の地でホテルを経営する中国の友人の協力で、今年はじめて麗江の世界遺産の中に、日本人と小数民族の青年たちが栽培したカラーの花が展示され、観光客に紹介されて居ります。
(2)今年、中国最大と言われる昆明市の「斗南花卉市場」で、大きな問題が発生して居ります。バイオテクノロジーで育種した花卉の形や姿に、本来の形質とは異なる、変種が大量に発見されて居るのです。カラーの場合ですと、特有の仏炎苞の花弁を包むガクが崩れ、花弁が丸見えになり、花の化け物・・・の様な花になつています。
バイオテクノロジーではこの異状現象を「変異現象・ミューテーション(mutation)」と言うそうですが、その原因も、解決の技術についても、現代の研究水準では、遺伝子や植物ホルモンが関係するらしい・・・という事くらいしかわからない。
種子を実から発芽させて苗を作り、土壌で栽培する自然栽培ではなく、バイオテクノロジーで植物の組織を試験管の中で培養し、試験管の中で育苗したバイオ苗を、土壌で栽培する方法で、最新のバイオ技術と言われております。
つまり交配した子実から発芽させずに、既存の優良種の組織を培養して苗を作ります。植物本来の開花、交配(遺伝)、結実、採種・・・と言う自然の育種ではなく、既存の優良種の組織を人工的に培養するのですから、正に人工的な育種です。この方法ですと、同一の優良種から一度に大量の同質の苗が生産できます。また病菌を遮断し、無菌の苗が獲得出来ます。この事から「時代の最先端技術…」と言われたものでした。
この技術が開発されて以来、研究者も、育種家も大勢は先を争って、挙って飛びつき、バイオテクノロジーの育苗工場を経営するバイオ企業が誕生し、「バイオ業界」と言う新業界が急速に発展しました。その陰で、開花、交配、結実、育苗・・・と言う、伝統的な育種技術は「時代遅れ・・・」とさえ言われ、組織培養の育種とバイオ苗作りが優先し、土を作り、強健な植物体を育む栽培面が軽視されがちでした。
しかし農業技術は安全、安定生産、消費者と生産者が満足する農産物を生産する事・・・。と言う社会的な鉄則から見れば、このバイオテクノロジーには大きな欠陥があることは当初から指摘されて居りました。ミュウーテーションばかりでなく、施設建設の投資費用の膨大さに加え、試験管の苗を畑に移植する時に必要な「順化」作業の技術面などにも問題点が多い事が指摘されていました。
しかしこのような問題点は、「生命工学の歴史的な新技術・・・」と宣伝するマスコミの潮流と、業界の商業主義に圧倒され、それに商業主義と「新技術・・・」のマスコミに汚染された一部研究者、バイオテクノロジーこそ農業現代化の象徴・・・と言う政府の役人によって葬り去られておりました。
今回のミュウーテーションで、誰が最大の犠牲者であったのか・・・。研究者やバイオ業者、政府役人を信頼し、高額なバイオ苗を買わされ、化け物の花に驚嘆した農民でした。その農民にはどこからも、何の賠償もない。泣き寝入りです。
私は研修生と共に、ひたすら花から子実を採集し、または種子を購入し、大地に播種して発芽させ、有機質を微生物で発酵させた「発酵土」で栽培し、花を咲かせて来ました。政府の役人は「日本の花卉園芸技術は遅れている・・・」と言ったものでした。私はバイオテクノロジーを全面的に否定するつもりはありませんが、未完成の技術を、商業主義に便乗して農民に押し付け、利益だけを掠め取り、その責任を取ろうとしない者に対して怒りを感ぜずには居られない。
(3)麗江では「西部大開発」と言う政府の政策により、世界遺産を中心に観光開発が行われ、そのゴルフ場建設のために、3年前、私の花卉実験伝習農場が盗られた事は、度々お知らせした通りですが、3年前に中国革命後初めての村長選挙がありました。その結果無名の青年が、村政の民主化を訴え、妾を3人養い、村を私物化し、開発資本、政府、と一体となってゴルフ場建設を推進していた、村の共産党の幹部を圧倒的多数で破り、村政を担って来ました。
村の財政を村民に明確にし、共産党幹部とその一族が開発により巨大な利権を独占している事実も村人に分かって来ました。ゴルフ場の村有の共有林地の補償問題で、農民の測量面積と市、業者の補償面積との差。林木の補償金など不正が次々に発覚し、農民の市政府えの野営を含む抗議行動などもあって、4車線の観光道路だけが完成したものの、ゴルフ場の建設工事が着工出来ずにいることも、度々皆様に報告してきた通りです。
その中で今年3月が村長の任期満了で選挙が行われるはずでしたが、選挙がありませんでした。投票日を決定する権限は市政府です。
村民が一致団結して、村の利益を守り、市政府に対してゴルフ場の不正に抗議を行い、自分たちの要求実現の行動を続けている隣村(敏儒下村)の知人の話では、
「彼ら(市政府と地元共産党の旧幹部)は選挙で自分たちが圧倒的に有利になる情勢が確認出来るまで、投票を引き延ばすだろう・・・」と言う事でした。
かくして村の共産党旧幹部とその親族は何を行ったか。
a、村には婦人の集まりあります。村の納西族が伝承する舞踊を引き継ぎ、時々練習を行って居る集まりですが、この婦人たちに対し、一人に1千元をバラ撒きました。つまり買収です。
b、村には余生を送る老人の集いがあり、日頃は個人個人で気ままに麻雀などを行って居りますが、時々全員が見物に出かけたりしております。この老人たちに対して、一人に1千元をバラ撒きました。つまり買収です。
どこの家にも婦人と老人が居ります。老人夫婦が同居しているのが普通ですから、この場合は一家に3千元がバラ撒かれた事になります。
C、家長をはじめ、成人の男性に対しては、自分の親族関係と、明確に現青年村長派と見なされない、浮動層に対しては、街の一流の飲食店に招待して、豪華なもてなしを行い、投票の依頼をし、ここで多額な現金がバラ撒かれたらしい。
つまり供応と買収です。
d、村の農民の燃料(薪)、肥料(落ち葉)、農業用水の供給地であり、なによりも村人の生命である飲料水の水源である共有林地をゴルフ場に奪われ、平地の農地には、文化遺産の街の汚水処理場建設の工事が始まり、農地を奪われた村の農民一人の農地は、1畝(1ムー=666㎡)以下に減少してしまいました。これでは農民は農業では生活出来ない。汚水処理場の用地買収の交渉が、農地買収に反対する農民の厳しい要求(最悪の場合代替地を要求)で難航した際、その席上で市政府の役人は、農民に対し、「農地を売った補償金でトラックを買い、汚水処理場建設の土砂の運搬作業を請け負ったらどうか・・・」と発言したらしい。(これは役人の越権行為)一部の農民はこの発言を信頼して、補償金を受け取ると、足りない分は銀行から借り入れて、中古のトラックを購入しました。(約10台)しかし汚水処理場の建設作業が始まったものの、麗江の公司は規模が小さく、資本金や経験など、法律の基準に達しない。結局工事を請け負ったのは、麗江以外の大規模な公司でした。この公司は専用のトラックを所有しており、地元農民のトラックが運搬する土砂の量が少ない・・・。銀行からの借り入れ金の返済に困る農民も出てきました。
ここに目をつけた共産党旧幹部一族は、「今の村長は若すぎて、政府の幹部に顔が利かないから仕事が取れない 、共産党に任せれば、市関係の仕事を請け負うことが出来る・・・」と弱味に付け込み抱き込みました。事実、現在の中国では親族が役人になっている場合、役人の地位に応じて、親族の利益が大きい。
村の妾3人を養う共産党幹部の場合、親族の一人に雲南省政府の幹部がおり、市政府の幹部も、この村の共産党幹部の行動には関与出来ない弱味があります。
一方、現役の青年村長は、村民の良識を信頼して、3年間の実績を語る戦術でした。
かくして選挙選が戦われましたが、日本の様に、候補者のビラが貼られるわけでなく、スピーカーで訴えるわけでもなく、表面では選挙戦の実態は分かりません。
6月7日に投票日が決まりました。村の共産党幹部一族は、圧倒的多数で勝利する見通しが立ったのしょう。
投票は私が居住する村の小学校分校の校庭で行われました。管理のため、市政府から担当の役人が派遣されました。村(敏儒上村)で選挙権を保有する成人は男117人、女123人、合計240人ですが、投票は一家で一票です。例え6人家族でも、5人家族でも、投票は一家に一票と言う事です。(不可解なところです)
投票人は78人、朝8時30分、一家を代表する投票人が校庭に集まってきました。大概は家長ですが、婦人や長男などの例外も居ります。管理者の役人が一人一人の名前を読み上げ、名前を呼ばれた者が、投票箱の前で投票する訳です。
投票は約2時間、役人がその場で開票します。
結果は共産党旧幹部の一族である、妾3人の幹部の弟が当選。現職の青年村長は落選でした。ただしその差は4票・・・。
現職の青年村長は、その場で、「この選挙は不正であり、無効である!!」と農民に訴え、共産党旧幹部に抗議しました。
(文中の妾3人を養う村の共産党幹部は、****の事であり、私は中国共産党員の誠実な党員を多く知って居ります。ましてや日本共産党の事ではない事を加筆します)